腹部(内臓)の後遺障害

ここでは胸腹部の内臓器官の障害について説明します。
呼吸器、循環器、消化器、泌尿器、そして生殖器、私達の体には多くの内臓器官があり、どれも生命維持に重要な役割を果たしています。内臓に障害を負うと、日常生活や就労が困難になります。
また、程度によっては生涯に亘って介護が必要となることもあります。
このため、内臓器官の障害は、神経系統の障害同様、要介護等級が設けられています。

胸腹部の後遺障害等級認定基準

(別表第1)
第2級2号  胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
第1級2号  胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

(別表第2)
第13級11号  胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
第11級10号  胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第9級11号  胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの
第9級17号  生殖器に著しい障害を残すもの
第7級5号   胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第7級13号  両側の睾丸を失ったもの
第5級3号  胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第3級4号  胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの

判断の分かれ道

1.胸部の障害

胸部には、肺、肋膜、横隔膜等の呼吸器系の内臓と、心臓や心嚢等の循環器系の内臓があります。

【呼吸器系】

呼吸器系の判定は3種類の測定結果をもとに判断します。
肺には、気管を通じて入ってきた空気を出し入れする換気機能と、酸素と炭酸ガスを血液中でやり取りする呼吸機能の二つの機能があります。換気機能を検査する場合は肺機能検査、呼吸機能を検査する場合は動脈血ガス分析を行い、この2種の検査で立証ができない場合、運動負荷試験により判定します。

原則動脈血ガス分析で判定をしますが、これによる判定が肺機能検査及び運動負荷試験の判定結果よりも低い等級となる場合は、肺機能検査及び運動負荷試験の判定結果により認定をします。

<動脈血ガス分析>
動脈から採血した血液を10分以内に血液ガス自動分析装置にかけて分析します。

<肺機能検査>
肺の換気機能を調べる検査です。スパイロメーターという計測器を使用します。

呼吸困難の程度

「高度」  呼吸困難のため、連続して概ね100メートル以上歩けないもの
「中等度」 呼吸困難のため、平地でさえ健常者と同様には歩けないが、
自身のペースでなら1キロメートル程度の歩行が可能であるもの
「軽度」  呼吸困難のため、健常者と同様には階段の昇降ができないもの

<運動負荷試験>

上記2種の検査で立証できないものの、呼吸機能の低下による呼吸困難が認められる場合は、運動負荷試験を行います。運動負荷試験とは、被験者の心肺機能の異常とその程度を把握し、どの程度の運動までであれば安全に行えるのかを評価するための試験です。この検査の結果から明らかな呼吸機能の障害があると認められる場合は11級が認定されます。

【循環器系】

<心臓機能が低下したもの>

9級  概ね6METsを超える強度の身体活動が制限されるもの
11級  概ね8METsを超える強度の身体活動が制限されるもの

METsとは身体活動や身体運動の強度の単位です。安静にしているときを1とし、何倍のエネルギーを消費するかで強度を示します。軽い散歩や階段の昇降は3METs、家財道具の移動や、10分以下のジョギングは6METs、重い荷物の運搬、ランニングや水泳は8METsと言われています。

<除細動器又はペースメーカを植え込んだもの>

7級  除細動器を植え込んだもの
9級  ペースメーカを植え込んだもの

<心臓の弁を置換したもの>

9級  房室弁又は大動脈弁を置換し、継続的に抗凝血薬療法を行うもの
11級  房室弁又は大動脈弁を置換し、抗凝血薬療法を行わないもの

<大動脈解離を残すもの>

11級  大動脈に偽腔開存型の解離を残すもの

2.腹部の障害

腹部の内臓は、食道、胃、小腸、大腸や肝臓等の消化器系と、腎臓、尿管、膀胱や尿道等の泌尿器系、そして生殖器系があります。
腹部の障害の検査は、X線画像、内視鏡検査、消化液検査、尿検査、糞便検査、機能検査(主に肝臓、膵臓、腎臓)そして血液検査等があります。

注意しておくべき点としては、腹部臓器の障害は症状固定後に症状が悪化する可能性が高く、また治癒した場合も再発しやすいという点です。この点を考慮して、検査結果は残しておく必要があります。

【消化器系】

<食道>

9級 食道の狭窄による通過障害を残すもの

以下のいずれにも該当するものをいいます。

 ① 通過障害の自覚症状があるもの。
 ② 消化管造影検査により、食道の狭窄による造影剤のうっ滞が認められるもの。

<胃>

交通事故により、胃の一部又は全部を切除した場合は、少なくとも13級が認定されます。それ以上は、以下の症状のうち、いくつが該当するかにより等級が認定されます。

7級 3つの症状すべてに該当するもの
9級 3つの症状のうち、いずれか2つが認められるもの
11級 3つの症状のうち、いずれか1つが認められるもの
13級 胃の噴門部(入口の部分)又は幽門部(出口の部分)を含む胃の一部を亡失したもの
(①~③のいずれも認められない場合)

①消化吸収障害
胃の一部又は全部を切除したことにより、食べたものがうまく消化吸収されない状態のことです。BMIの数値が20以下の場合がこれに該当します。

②ダンピング症候群
食後30分以内の眩暈や起立不能等の症状、又は食後2時間から3時間後に眩暈、全身の脱力感等の症状がみられます。

③胃切除術後逆流性食道炎
胃の入り口の部分を切除したことにより、胃液が食道に逆流し、胸やけ、食道の潰瘍やびらん等の症状がみられます。

<小腸及び大腸>
①小腸及び大腸を大量に切除したもの

9級  残存する空腸及び回腸の長さが100センチメートル以下になったもの
11級 残存する空腸及び回腸の長さが100センチメートルを超え300センチメートル未満となったものであって、消化吸収障害が認められるもの
11級 大腸のすべてを切除する等、大腸のほとんどを切除したもの

②人工肛門を増設したもの

5級 小腸又は大腸の内容が漏出することによりストマ(人工排泄口)周辺又は皮膚瘻周辺に著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
7級 人工肛門を装着したもののうち、5級に該当するもの以外のもの

③小腸又は大腸の皮膚瘻を残すもの

5級  瘻孔から小腸又は大腸の内容の全部又は大部分が漏出するもののうち、皮膚瘻周辺に漏出による著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
7級 Ⅰ 瘻孔から小腸又は大腸の内容の全部又は大部分が漏出するもの
    Ⅱ 瘻孔から漏出する小腸又は大腸の内容が100ml/日以上のもののうち、パウチ等による維持管理が困難であるもの
9級  瘻孔から漏出する小腸又は大腸の内容が100ml/日以上のもの
11級 瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸又は大腸の内容が漏出する程度のもの

④小腸又は大腸に狭窄を残すもの

11級 小腸又は大腸に狭窄を残すもの
次のいずれにも該当するもの。
Ⅰ 1ヶ月に1回程度、腹痛、腹部膨満感、吐き気、嘔吐等の症状が認められるもの
Ⅱ 単純X線像においてケルクリングひだ像が認められるもの

⑤便秘を残すもの

9級  用手摘便要すると認められるもの
11級 9級に該当しないもの

交通事故に遭う前から便秘の方もいます。

このため、後遺障害等級認定上、便秘とは、次のいずれにも該当する場合に認定されます。
Ⅰ 排便反射を支配する神経の損傷がMRI画像又はCT画像等により確認できるもの
Ⅱ 排便回数が週2回以下の頻度であって、恒常的に硬便であるもの

⑥便失禁を残すもの

7級 完全便失禁
9級 常時おむつの装着が必要なもの
11級 常時おむつの装着は必要ないものの、明らかに便失禁があると認められるもの

<肝臓及び胆のう>

9級  肝硬変であり、ウイルスの持続感染が認められ、且つGOT・GPTが持続的に低値であるもの
11級 慢性肝炎であり、ウイルスの持続感染が認められ、且つGOT・GPTが持続的に低値であるもの
13級 胆のうを失ったもの

<膵臓>

9級 外分泌機能の障害と内分泌機能の障害の両方が認められるもの
11級 外分泌機能の障害又は内分泌機能の障害のいずれかが認められるもの

<脾臓>

13級 脾臓を失ったもの

【泌尿器系】

泌尿器は腎臓、尿管、膀胱、尿道で構成されています。

<腎臓>
腎臓の障害は、以下の2点の程度により判定されます。

①腎臓の亡失の有無
②糸球体濾過値(GFR)

<尿管、膀胱及び尿道>
①尿路変更術を行ったもの

5級  非尿禁制型尿路変更術を行ったもののうち、尿の漏出によりストマ周辺に著しいびらんを生じ、パッド等の装着ができないもの
7級  Ⅰ 非尿禁制型尿路変更術を行ったもの
     Ⅱ 禁制型尿リザボアの術式を行ったもの
9級  尿禁制型尿路変更術を行ったもののうち、禁制型尿リザボア及び外尿道口形成術を除くもの
11級  外尿道口形成術を行ったもの又は尿道カテーテルを留置したもの

②排尿障害を残すもの

9級  膀胱の機能障害により、残尿が100ml以上であるもの
11級  Ⅰ 膀胱の機能障害により、残尿が50ml以上100ml未満であるもの
    Ⅱ 尿道狭窄のため、糸状ブジーを必要とするもの
14級  尿道狭窄のため、糸状ブジー第20番がかろうじて通り、時々拡張術を行う必要のあるもの

③蓄尿障害を残すもの

7級  Ⅰ  持続性尿失禁を残すもの
     Ⅱ 切迫性尿失禁及び腹圧性尿失禁のため、終日パッド等を装着し、且つパッドをしばしば交換するもの
9級  切迫性尿失禁又は腹圧性尿失禁のため、常時パッド等を装着しているが、パッドの交換を要しないもの
11級  切迫性尿失禁又は腹圧性尿失禁のため、パッドの装着は要しないが、下着が少し濡れるもの

切迫性尿失禁とは、前触れもなく突然強い尿意が起こり失禁してしまう場合をいい、腹圧性尿失禁とは、日常動作の中で腹部に力が加わった時に失禁してしまう場合をいいます。

また、頻尿とは次のいずれにも該当する場合をいいます。

・器質的病変による膀胱容量の器質的な減少又は膀胱若しくは尿道の支配神経の損傷が認められること
・日中8回以上の排尿が認められること
・多飲等の他の原因が認められないこと

胸腹部の後遺障害等級認定においては、治療に必要な検査と後遺障害の等級認定に必要な検査が必ずしも一致していない場合があります。医師に後遺障害等級の認定に必要な検査の必要性を理解してもらい、協力をお願いするため、被害者自身も、後遺障害の等級認定のための資料収集に、どのような障害においてはどのような検査が必要になるということを把握しておくことも大切です。