「母親」の死亡事故

被害者:女性 46歳
受傷部位:腹部等
事故状況:被告の運転する普通乗用車が、左カーブを曲がりきれず対向車線に進出し、対向車線を走行中であった被害者運転の大型自動二輪車と衝突した。

認定金額
治療費 約 73万円
死亡逸失利益 約 3183万円
死亡慰謝料 約 1900万円
近親者慰謝料(夫) 約 200万円
  〃   (子) 約 100万円
  〃   (子) 約 100万円
  〃   (子) 約 100万円
刑事事件記録謄写費用 約 1万円
事案の概要・裁判所の判断

本件事故は、3名の子どもを持つ母が、交通事故により多発肋骨骨折等の傷害を負い、これによる外傷性ショックによって死亡するに至ったものである。
事故態様には争いがなく、主な争点は損害額の相当性である。
特に、本件では、本件事故の刑事裁判が既に行われ、被害者の夫がこれに被害者参加人として参加しており、そのためにかかった費用(交通費・弁護士費用)をも請求していたため、これが本件事故と相当因果関係ある損害と認められるかが問題となった。

葬儀費用については、原告らの主張、立証によれば少なくとも約277万円の支出があったと認めながら、相当因果関係ある損害額は150万円であると判断した。

死亡慰謝料については、センターラインオーバーという本件事故の態様、被害者の家族状況及び原告らの心情等の一切の事情を考慮したとして、上記認定額が認められた。

被害者参加に関する費用については、原告から約25万円の請求がなされていたが、裁判所は「刑事事件に被害者参加することは、遺族の権利であるとはいえても義務ではなく、損害賠償請求をするにあたって必要であるともいえない」として、記録謄写費用以外については相当因果関係を否定した。

コメント

葬儀費用及び死亡慰謝料額については、裁判所の一般的な判断といえるだろう。
裁判所は、葬儀費用については原則として150万円までしか認めず、これ以上が認定されるためには、手厚い葬儀をせざるを得ない必要性(社会的地位や属性)の十分な立証が必要となる。
また、「母親」が死亡した場合の慰謝料額は本人及び近親者の固有のものの総額で2400万円程度とされることが多い。

本件の特色は、被害者の夫が刑事裁判に被害者参加制度を利用して参加し、この費用を損害として請求した点にある。
被害者参加制度とは、2008年より導入されたもので、これを利用すると、刑事裁判の公判に出席し、証人に対する尋問や、被告人に対する質問を行うなど、被害者が刑事裁判に直接参加できる。
これらは、被害者自身が行うこともできるが、刑事裁判は高度に専門的であるため、弁護士を代理人として選任し、共に行うことが多い。これにかかった費用に、事故との因果関係があるか否かが争われた。
裁判所は、被害者参加は権利であって義務ではないことを理由に、因果関係を否定するという冷静な判断をした。被害者側からすれば、事故が起きなければそのような出費はなかったと言いたいところだが、裁判所のいう「相当因果関係」とは、「事故によって通常生じる損害といえるか否か」という意味である以上、法的には妥当な着地点にも思える。
なお、被害者参加制度を利用したいが、資力に乏しいという場合には、被害者参加人のための国選弁護制度や被害者参加旅費等支給制度というものも用意されている。