頚椎捻挫事案(低髄液圧症候群) 後遺障害等級9級10号 

被害者:性別不明 31歳(症状固定時点)
受傷部位:頭痛、頚部痛、めまい、吐き気、耳鳴り等
事故状況:停止中の原告車両に、被告車両が追突

認定金額
治療費(文書料含む) 約224万円
入院雑費 約10万円
通院交通費 約108万円
休業損害(休業31ヶ月) 約1280万円
入通院慰謝料 約310万円
後遺症慰謝料 約550万円
後遺症逸失利益 約1950万円
事案の概要・裁判所の判断

本件事故は、停車中の原告車両に被告車両が追突してきたものであり、過失割合に争いはない。主な対立点としては、原告が本件事故により低髄液圧症候群を発症したか否かという点である。

この点につき、低髄液圧症候群の診断に肯定的な意見書Aと、否定的な意見書Bが双方から出された。裁判所は双方を証拠として採用したうえで、意見書Bの内容は、一般論に過ぎず本件の被害者の所見が低髄液圧症候群でない理由を具体的に示していないとし、事実経緯に沿った説明となっている意見書Aの内容によった判断をした。
そして、原告には、頚部・肩部・腰部の疼痛のほか、低髄液圧症候群に基づく、頭痛、めまい、吐き気等の症状が残存していることを認めつつ、これまでのブラッドパッチ等の治療経過により改善されていることも斟酌し、原告主張の後遺障害等級7級の4ではなく、後遺障害等級9級の10に相当するものと認定した。
また、逸失利益に関して、長期間でみれば症状が改善する可能性もあると考え、症状固定から10年を過ぎた後は、12級相当の14%で算定することを妥当とした。

コメント

本件では、低髄液圧症候群の特徴である起立性頭痛を、事故直後に原告が訴えていた記録がないこと、及び、低髄液圧症候群に効果があるとされるブラッドパッチ治療後に症状が悪化していること等について、2名の医師の意見が対立していた点に特徴がある。
最終的に裁判所が拠って立った意見書Aは、これらの点について具体的な事実経緯に沿った医学的な説明がなされており、一般論に終始しない具体的な意見のもつ説得力が現れた好例といえる。
裁判所は、起立性頭痛について「原告は、本件事故直後から、横になって休むことが多かったのであり、上記A医師の所見を考慮すると、原告に事故直後からの起立性頭痛がなかったとまではいえない」と判断したうえで、少なくとも事故後12日目には起立性頭痛があったと認めた。また、ブラッドパッチの効果については「一時的な完治と悪化を繰り返しつつ、改善の方向に向かったことが認められることからすれば、相当程度の効果は遭ったと評価することが妥当」と判示した。

医学的知見に関しては、医師の協力がどれだけ得られるかが鍵となるといえるだろう。