神経系統・精神の後遺障害

神経系統の障害は、頭部については外傷により脳に傷害を負った場合、その他の部位については、骨折や捻挫、牽引傷害等により神経が直接的又は間接的に刺激や損傷される場合に生じます。
この他、非器質性精神障害、眩暈等の平衡機能障害、疼痛等の感覚障害もこの基準で認定を受けることになります。

神経系統の機能又は精神の後遺障害認定基準

(別表Ⅰ)
第2級1号  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
第1級1号  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

(別表Ⅱ)
第14級9号  局部に神経症状を残すもの
第12級13号 胸部に頑固な神経症状を残すもの
第9級10号  神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの
第7級4号  神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第5級2号  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第3級3号  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの

脳の後遺障害

脳の後遺障害には、「器質性の障害」と「非器質性の障害」があります。
器質性の障害とは、外傷を伴うものをいい、非器質性の障害とは外傷を伴わないものをいいます。

<器質性障害>
脳の器質性の障害は、「高次脳機能障害(器質性精神障害)」と「身体機能障害(神経系統の障害)」に区分した上で、「高次脳機能障害」の程度、「身体性機能障害」の程度を踏まえて総合的に判断されます。たとえば、高次脳機能障害が5級に相当し、身体性機能障害で、軽度の片麻痺(7級相当)がある場合、5級と7級を併合して3級とするのではなく、その場合の全体病像として、第1級から3級のいずれかを認定します。

<非器質性の障害>
非器質性の障害とは、脳に器質的損傷がないにも関わらず、精神的、身体的な異常が生じるものをいいます。代表的なものとしては、PTSDがあります。

非器質的精神障害の後遺障害認定基準

非器質的精神障害とは、以下の「Ⅰ 精神症状」の内1つ以上の精神症状を残し、かつ、「Ⅱ 能力に関する判断項目」の内1つ以上の能力について障害が認められるものをいいます。

該当する等級は、第9級10号、第12級相当、第14級相当の3つとなります。

Ⅰ 精神症状

Ⅱ 能力に関する判断項目

①抑うつ状態
②不安の状態
③意欲低下の状態
④慢性化した幻覚・妄想性の状態
⑤記憶又は知的能力の障害
⑥その他の障害
(衝動性の障害、不定愁訴 等)

①身辺日常生活
②仕事・生活に積極性・関心をもつこと
③通勤・通勤時間の厳守
④普通に作業を持続すること
⑤他人との意思伝達
⑥対人関係・協調性
⑦身辺の安全保持・危機の回避
⑧困難・失敗への対応

第9級10号
通常の労務に服することはできるが、非器質性障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの

1. 就労している又は就労意欲がある場合は、次のいずれかに該当するもの

・Ⅱの②~⑧のいずれかひとつの能力が失われているもの
・Ⅱの4つ以上について、しばしば助言・援助が必要とされる障害を残しているもの

2. 就労意欲の低下または欠落により就労していないものについては、日常生活について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの

第12級相当
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの

1. 就労しているもの又は就労意欲のあるものについては、2の4つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの

2. 就労意欲の低下又は欠落により就労していないものについては、身辺日常生活を適切又は概ねできるもの

第14級相当
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの
Ⅱの1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの

非器質性精神障害の認定のポイント

非器質性精神障害の可能性のある事案は、一般の事案が審査される自賠責調査事務所ではなく、専門部会のある自賠責の最上位審査機関である自賠責保険審査会で審査にかけられます。
非器質性精神障害で後遺障害等級の認定を受けるためには、いくつかのハードルがあります。

① 因果関係の立証

非器質性精神障害は、器質的損傷がないため、交通事故に起因する障害ということを、MRIやCTの画像を使って客観的に証明することができません。

因果関係を主張する際は、事故状況、受傷内容、精神症状の発症時期、精神科等専門医への受診状況、を元に、交通事故により発症した障害であることを判断します。

たとえば、事故直後に精神症状は見られなかったが、職場に復帰した後に抑うつ状態に陥るようになったというケースの場合、発症は職場環境に起因するものであるとして、因果関係が認められない可能性が出てきます。非器質性精神障害で因果関係を立証する際には、交通事故を原因として発症したことの説明だけでなく、他に発症の要因が存在しないということの主張立証が必要となります。

また、仮に因果関係が認められた場合でも、保険会社より、本人の生来の性格や家庭環境等、他の要因も影響しているとして減額(素因減額)の主張が出される場合が多々あります。

② 症状の認定

非器質性精神障害の程度は、上記のとおり器質的損傷を伴っていない障害のため、画像所見等により客観的に認定することができません。このため、「非器質性精神障害の後遺障害の状態に関する意見書」や「日常生活状況報告表」を専門医に作成してもらい、そこに書いてある内容を元に程度を判断することになります。

③ 症状固定の時期

非器質性精神障害の多くは、心理的負荷を取り除き、適切な治療を行えば1年半から2年ほどで完治すると考えられています。一時的に症状に大きな改善が認められない状態に達した場合でも、一定期間治療を継続し、それでもなお回復が見込めない状態となった場合に、症状固定をすることになります。

しかし、上記のとおり、非器質性精神障害の症状が客観的に判断できない以上、症状固定の時期の判断も難しい問題となるといえます。

失調、眩暈等及び平衡機能障害

平衡機能障害は、耳の障害、中枢神経系の障害、その両方が原因となって生じる場合があります。後遺障害の認定にあたっては、障害部位によって分類することが困難であるため、神経系統の障害として、機能の障害の程度に応じて等級の判断が行われます。

なお、等級表中に「眼振」という言葉が出てきますが、これは眼球が継続的に動き回っている状態をいいます。眩暈を訴える人は必ず眼振の症状がでるため、眼振検査により、眩暈の起きやすさを調べることができます。

平衡機能障害の認定基準

第3級3号  生命の維持に必要な身の回りの処理の動作は可能であるが、高度の失調又は平衡機能障害のために労務に服することができないもの

第5級2号 著しい失調又は平衡機能障害のために、労働能力がきわめて低下し一般平均人の1/4程度しか残されていないもの

第7級4号 中等度の失調又は平衡機能障害のために、労働能力が一般平均人の1/2以下程度に明らかに低下しているもの

第9級10号 通常の労務に服することはできるが、眩暈の自覚症状が強く、且つ、眼振その他平衡機能障害検査に明らかな異常所見が認められ、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの

第12級13号 通常の労務に服することはできるが、眩暈の自覚症状があり、且つ眼振その他平衡機能障害検査の結果に異常所見が認められるもの

第14級9号 眩暈の自覚症状はあるが、眼振その他平衡機能障害検査の結果に異常所見が認められないものの、眩暈があることが医学的にみて合理的に推測できるもの

疼痛等感覚障害

疼痛とは痛みを表す医学用語です。
痛みには、常時痛む「継続痛」、重たい物を持つ等特定の動作を行った時に痛む「運動痛」等、様々な痛みがあります。疼痛により後遺障害の認定を受けることができるものは「継続痛」のみです。
したがって、重い物を持った時にのみ痛みがでる場合や、天候が悪い時にのみ感じる痛みは、等級認定の対象とはなりません。
一般的な疼痛は、医学的に証明できる場合は12級、医学的に説明できる場合は14級、そのいずれもできない場合は非該当となります。

<RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)>
後遺障害認定において、RSDは一般的な疼痛とは別に、特殊な疼痛として認定基準が設けられています。

①RSDにおける疼痛発生のメカニズム

RSDの原因となる痛みは、打撲等の軽微な受傷の場合もあります。
人は痛みを感じると、痛みの信号を大脳に伝達すると同時に、交感神経が興奮して、末梢神経を収縮させ、出血等を止めようとします。出血が止まると交感神経の興奮は収まり、血管が拡張し、組織の修復に必要な栄養が送り込まれるようになります。

しかし、中には交感神経の興奮状態が解かれない状態になってしまうことあります。その場合、末梢神経の収縮がとかれないため、血管の拡張が行われず、血流不足になり疼痛が生じます。疼痛は受傷部位に限らず、拡大することもあり、ケースによっては強度の疼痛のため切断を余儀なくされるさえあります。

②RSDの後遺障害等級

第7級4号  簡易な労働以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの

第9級10号  一般的な労働能力は残存しているが、疼痛により時には労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの

第12級13号 労働には通常差し支えないが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの

③RSDの認定基準

自賠責保険の上、RSDとして後遺障害の等級が認められるためには、以下の3つの症状が健側(事故の影響による症状がない側)と比較して明らかに認められる必要があります。

・関節拘縮
関節の機能障害で評価した場合の等級が参考にされます。

・骨の委縮
X線画像やMRI画像により診断します。

・皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の委縮等)
サーモグラフィーや発汗テスト等の検査結果の他、健側と並べて撮影した写真により判断されます。

なお、医学上のRSDの診断基準は、自賠責保険の認定基準と異なり、「骨の委縮」が含まれていません。医師からRSDと診断されていても、骨の委縮が見られないため、自賠責保険上の後遺障害の認定対象とならないことがあります。この場合に、RSDに基づき適切な賠償を受けるためには、裁判でRSDの後遺症による損害賠償を求めることを検討する必要があります。